遺言を作成する際、遺言執行者を決めておくことが多いと思いますが、遺言執行者には様々な義務があります。遺言の中で遺言執行者を指定したとしても強制することはできず、指定された者は遺言執行者への就任を拒絶することもできるので、事前にきちんと義務の内容を説明して了承を得ておくことが望ましいと言えます。
義務に違反した場合は損害賠償等の責任を問われるおそれがあります。また、相続法の改正により2019年7月1日から従前よりも迅速な遺言執行が求められることとなりました。遺言執行者になることを依頼された場合は、安易に引き受ける前に義務の内容をきちんと把握し、慎重に判断すべきです。
遺言執行者の義務
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を有します。相続人や受遺者に対する財産の引き渡しや、引き渡すまでの管理を行うことはもちろんですが、他にも以下のような義務があるので注意が必要です。
1.就任の通知
遺言執行者は、遅滞なく遺言の内容を相続人全員に通知しなければなりません。
包括受遺者にも通知する必要があります。特定受遺者への通知は義務とはされていませんが、通知することが望ましいでしょう。
※包括遺贈と特定遺贈の違いについては『遺贈にも色々ある』を参照。
この通知義務は相続法改正により2019年7月1日から定められたものですが、それ以前に作成された遺言に基づく遺言執行者も負う義務なのでご注意ください。
2.財産目録の作成
遺言執行者は、遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人全員に交付しなければなりません。通常は上記1の通知と同時に行います。
何も財産を相続しない相続人に対しても交付する必要があります。遺留分のない相続人であっても交付しなければならないという裁判例があります。(東京地判平成19年12月3日)
目録作成の前提として、財産の調査(洗い出し)が必要となります。遺言書に財産の内容が記載されていれば手掛かりになりますが、遺言書作成時と相続開始時で財産内容が変わっていることもあるので注意が必要です。
3.報告義務
遺言執行者は、相続人の請求があるときは、いつでも遺言執行の状況を報告しなければなりません。また、遺言執行が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければなりません。
受遺者や被相続人への守秘義務を理由に遺言執行状況の開示を拒むことはできないという裁判例があります。(京都地判平成19年1月24日)
4.対抗要件の具備
遺言執行者は、速やかに対抗要件を具備する必要があります。具体的には、不動産であれば「登記」、預貯金であれば「金融機関への通知」です。
これを怠り相続人が遺言どおりの権利を確保できなかった場合、遺言執行者は責任を追及されるおそれがあります。事案にもよりますが、上記1の就任の通知よりも先にこちらを行うこともあります。通知により相続開始を知った相続人が先に登記を入れてしまうといった事態を防ぐためです。
相続法改正により対抗要件の具備がより一層重要となりました。詳細は以下の記事をご参照ください。
『遺言執行者は相続登記をお早めに』
『遺言があるときは相続登記をお早めに』
『相続による預貯金の払戻しはお早めに』
5.遺言書の検認
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して検認を請求しなければなりません。遺言執行者の義務ではありませんが、遺言執行者に指定された者が遺言を預かって保管している場合にはこの義務があります。
なお、公正証書遺言の場合は検認不要です。また、自筆証書遺言であっても法務局に保管している場合は検認不要です。
※『遺言書の検認とは?』参照。
【補足】遺言執行を専門家に依頼する
上記のとおり遺言執行者には様々な義務があり責任が重いため、専門家(弁護士や司法書士)に依頼することもできます。
しかし、相続人や受遺者の1人が遺言執行者になっている場合であっても、その者が専門家に依頼して自分の代わりに任務を行ってもらうことは可能です。専門家を遺言執行者とした場合、相続開始時点ですでに死亡していたり廃業していたりする可能性もあるため、当事務所では基本的には相続人や受遺者を遺言執行者とすることをおすすめしています。遺言執行者が自分で任務を行うことが難しいと思ったのであれば、その時点で遺言執行者が専門家を選んで依頼すればよいからです。(間違っても信託銀行に依頼してはいけません。『遺言・相続の手続きを信託銀行に絶対に依頼してはいけない理由』参照。)
ただし、2019年7月1日の相続法改正以前に作成された遺言については、遺言中に「遺言執行者は第三者に任務を行わせることができる」と書いていない場合は、やむを得ない事情がない限り専門家に代行してもらうことができないので要注意です。ですが、公正証書にしている場合はたいていこの文言が書かれていると思います。
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