ずっと昔に登記された抵当権等が残っている土地があります。
このような登記を抹消する方法はいくつか用意されていますが、基本的に弁済をしたこと等を証明する書類が必要です。そんな書類は存在しないことがほとんどでしょうから、実際には使えない方法となってしまっています。
唯一、そのような書類がなくても使える方法があるので、以下ではその手続きについて記載します。ただし、この手続きを行うには専門的な知識が必要なので司法書士等の専門家にご相談されることをお勧めします。
なお、不動産登記法改正(令和5年4月1日施行)により、このような登記の抹消について新しい簡易的な手続きが用意されました。そちらの手続きが使えるならばそのほうが楽です。使える条件等は以下をご参照ください。
※『古い抵当権等の抹消手続きが簡略化されます』
※『古い地上権・質権等の抹消手続きが簡略化されます』
- Q&A
- Q1.どのような権利が対象となりますか?
- Q2.どのような場合に利用できますか?
- Q3.「所在が知れない」とは具体的にはどういう場合ですか?(担保権者が個人の場合)
- Q4.所在不明を証するためにはどのような書類が必要ですか?
- Q5.「所在が知れない」とは具体的にはどういう場合ですか?(担保権者が法人の場合)
- Q6.相続人の一部のみが所在不明の場合、この手続きは利用できますか?
- Q7.弁済期はどのように確認すればよいのですか?
- Q8.根抵当権の弁済期はいつだと考えればよいですか?
- Q9.供託する金額はどのように計算するのですか?
- Q10.ずっと昔から今までの遅延損害金は高額になるのではないですか?
- Q11.どこの供託所に供託するのですか?
Q&A
Q1.どのような権利が対象となりますか?
A1.先取特権、質権、根質権、抵当権、根抵当権です。
Q2.どのような場合に利用できますか?
A2.以下の要件を全て満たす場合に、不動産所有者単独で登記の抹消の申請ができます。
- 担保権者(抵当権者等)の所在が知れないこと
- 被担保債権の弁済期から20年を経過していること
- 上記2の期間経過後に債権の元本・利息・損害金の全額に相当する金銭を供託したこと
Q3.「所在が知れない」とは具体的にはどういう場合ですか?(担保権者が個人の場合)
A3.以下のような場合です。
- 現在の所在も、死亡の有無も不明な場合
- 死亡していることは分かっているが、相続関係が不明な場合
- 相続人は判明しているが、その行方が不明な場合
単に所在を知らないというだけでは足りません。住民票や戸籍簿等の調査、官公署や近隣住民からの聞き込み等、相当な探索手段を尽くしても、なお不明であることを要します。
Q4.所在不明を証するためにはどのような書類が必要ですか?
A4.以下のいずれかの書面が必要となります。
- 市町村長が証明した書面
- 警察官が調査した書面
- 民生委員が証明した書面
- 登記義務者の登記簿上の住所に宛てた被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面
実務上は4を利用することが多いです(2や3の書面は実際にはまず取得できません。)。市区町村によっては「不在住証明」を発行してくれる所もありますが、これはその住所に「住民票がないこと」の証明であり、実際に居住していないことまで証明するものではないので使えません。
登記手続き上は4の書類があれば可能なのですが、担保権者やその相続人の存在を知っているにも関わらず、郵便を受け取らないように前もって指示したり、登記簿上の住所だけに郵送して相続人の住所宛には郵送しないといったことは許されません。(実際にこのようなズルをして懲戒処分となった司法書士がいます。)
ただし、きちんと調査しても死亡の有無が不明な場合は、人間の寿命からしてどう考えても死亡しているだろうという場合であっても、登記簿上の住所に居住していないことの証明書の添付があれば、その相続人を確認する必要はありません。
Q5.「所在が知れない」とは具体的にはどういう場合ですか?(担保権者が法人の場合)
A5.その法人について登記簿に記載がなく、かつ、閉鎖登記簿が廃棄済であるため、その存在を確認することができない場合です。
閉鎖登記簿が残っている場合は、実体が消滅している法人であっても、この手続きは利用できません。法人の代表者や清算人が全員死亡または所在不明であっても同様です。閉鎖登記簿が存在する限り、この手続きは利用できません。
Q6.相続人の一部のみが所在不明の場合、この手続きは利用できますか?
A6.所在不明の相続人に対してのみ、供託できます。なお、供託する金額はその相続人の相続分です。(全額ではありません。)
その上で、所在が判明している相続人と共同で(もしくはその者を相手に訴訟して判決を得た上で)抵当権の抹消登記手続きを行う必要があります。
Q7.弁済期はどのように確認すればよいのですか?
A7.金銭消費貸借契約書等があればその記載を確認すればよいのですが、そのような書類は紛失している場合が多いでしょう。
昭和39年4月1日の不動産登記法改正より前の登記簿には弁済期が記載されています。当初から弁済期を定めなかったため記載されていない場合もありますが、その場合は債権成立の日、その記載もない場合は抵当権の成立の日が弁済期となります。
昭和39年4月1日の不動産登記法改正後は登記簿から弁済期は分からないので、金銭消費貸借契約書等が必要となりますが、そのような書類がなくても弁済期について債務者の申述書(債務者の印鑑証明を添付したもの)でよいとされています。
Q8.根抵当権の弁済期はいつだと考えればよいですか?
A8.根抵当権・根質権は元本確定日を弁済期とみなします。
なお、元本が確定しているか否かを登記簿から読み取るには専門知識を要するため、司法書士等の専門家にご相談ください。
Q9.供託する金額はどのように計算するのですか?
A9.以下の金額の合計です。実際の計算は非常に複雑なので、司法書士等の専門家にご相談ください。
- 債権額(元本)
- 債権成立の日から弁済期までの利息
- 弁済期の翌日から供託日までの損害金
登記簿上に利息・損害金の記載がない場合は年6%で計算します。(「無利息」と記載されていない限り利息は発生するので要注意です。)
根抵当権・根質権では極度額を債権額、元本確定日を弁済期とみなします。
Q10.ずっと昔から今までの遅延損害金は高額になるのではないですか?
A10.債権額によります。明治~昭和初期に設定された抵当権は、債権額が数十円~数百円のものが多く、現在までの遅延損害金を含めても数千円程度で済むことも多いです。現在の貨幣価値に換算する必要はありません。
戦後に設定されたものは債権額が高額である場合が多く、供託金が大きくなって現実的にこの手続きが利用できないこともあります。
Q11.どこの供託所に供託するのですか?
A11.債権者の住所地の供託所です。
不動産の所在地ではないので要注意です。
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