遺言と死後事務委任契約の使い分け

Q&A

Q1.遺言と死後事務委任契約は何が違うのですか?

A1.遺言に書けることは法律で決まっており、法定遺言事項といいます。

法定遺言事項(遺産の分け方など)は遺言で、それ以外のこと(葬儀など)は死後事務委任契約で、と使い分けます

<参考記事>
・『遺言に書けることは法律で決められている? – 法定遺言事項
・『死後事務委任契約とは

また、遺言は本人が単独で作成できるのに対し、死後事務委任契約は相手方との「契約」です。相続や遺贈は放棄できる等、遺言は必ずしも相続人らを拘束しませんが、死後事務委任「契約」は相手方を拘束します。

つまり、相手方は死後に委任内容を実現する義務を負います。(義務を怠った場合は債務不履行責任や損害賠償責任を負います。)

Q2.法定遺言事項を死後事務委任契約の内容にすることはできますか?

A2.基本的にはできません。

法定遺言事項は民法等の法律に「遺言で」と明記されていることがほとんどだからです。(例外的に「特別受益の持戻し免除」と「祭祀主宰者の指定」は遺言に限定されていません。)

遺産の分け方は法定遺言事項なので、例えば「形見分け」や「お世話になった方に謝礼を支払う」といったことは死後事務委任契約ではなく遺言に書くべきですが、形見の財産的価値が低い場合や謝礼が少額である場合は死後事務委任の内容として許容できる可能性もあり、微妙なところです。

Q3.死後事務委任契約では医療費等の支払いを委任内容とすることが多いですが、債務の弁済は法定遺言事項ではないのですか?

A3.債務も遺産ではあるものの、債務の弁済は法定遺言事項ではありません

ただし、遺贈で債務のみを負わせることはできないものの、負担付遺贈清算型遺贈としてプラスの財産を与えるとともに債務を弁済をさせることは可能です。

※負担付遺贈・清算型遺贈については『遺贈にも色々ある』参照。

このような遺言を残す場合は、死後事務委任契約の内容と競合しないように注意が必要です。遺言で弁済すると記載した債務については、死後事務委任契約の内容には含めないようにすべきです。

なお、債務の「相続」(「弁済」ではなく)については以下の記事をご参照ください。
※『遺言で債務の相続割合を決めることはできるか

Q4.法定遺言事項以外であれば何でも死後事務委任契約の内容にすることができますか?

A4.何でもできるわけではありません。

例えば、死亡届を出せる人は戸籍法で決められているので、それ以外の人が届出をすることはできません。

死亡届を出せる人
  • 同居の親族
  • その他の同居者
  • 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人
  • 同居の親族以外の親族
  • 後見人・保佐人・補助人
  • 任意後見人・任意後見受任者

また、法令(※)で特定の専門職の独占業務として定められている業務を委任することはできません
※弁護士法、司法書士法、税理士法、行政書士法、社会保険労務士法、宅地建物取引業法など

死後事務委任契約で委任されたからといって、資格のない者が訴訟や登記申請をすることはできないということです。

貸したお金の取立てや建物の明渡し交渉も、弁護士法違反となる可能性が高いので避けるべきです。

Q5.遺言執行者と死後事務受任者を同じ人にすることはできますか?

A5.できます。

どちらも死後の事務を行う人なので、同じ人に任せた方がスムーズに手続きが進むと思われます

また、現状、死後事務委任契約は世の中に広く認知されておらず「死後事務受任者」と名乗ってもほぼ通じないので、「遺言執行者」と名乗ったほうが死後事務の手続きを受け付けてもらいやすいという現実もあります。(実際には遺言ではなく死後事務委任契約に基づいて事務を行うのですが…)

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