任意後見と成年後見の違い

任意後見と成年後見の違い

1.後見人の選び方

任意後見契約は、自分で選んだ相手を後見人とすることができます

任意後見契約を締結しても本人の判断能力が低下するまでは後見がスタートしないので(下記「4.後見開始条件」参照)、契約締結後に「やっぱりこの人とは合わないな」と思ったら契約を解除して別の人と任意後見契約を結び直すこともできます。

成年後見制度では、後見人は家庭裁判所が選びます

成年後見開始の申立て時に希望の候補者を伝えることはできますが、希望通りに選任されるとは限りません。

財産が多額で管理が難しい場合等は、親族を希望していても専門職(司法書士や弁護士等)が選任されることがあります。

また、希望通り親族が成年後見人に選ばれた上で、専門職の成年後見監督人が付けられることもあります。

2.後見人の報酬

任意後見契約では、報酬額を契約で自由に決めることができます。親族が任意後見人になる場合は無報酬にすることもあります。

成年後見人の報酬額は家庭裁判所が決定します。概ね月額2~3万円ですが、財産額が大きい場合はもっと高くなることもあります。また、特別な行為(※)を行った場合は付加報酬が加算されることがあります。
※例えば、訴訟、遺産分割協議、保険金の請求、不動産の売却等

ただし、報酬を貰うには成年後見人が家庭裁判所に申立てる必要があるので、親族が成年後見人の場合は敢えて報酬付与の申立てをしないこともあります。

3.代理権の範囲

成年後見人は、包括的な代理権を持っています。基本的に何でもできるということです。
※例外については『成年後見人にできないこと』参照。

任意後見契約では代理権の範囲も契約で自由に決めることができます。例えば、土地は先祖代々受け継いできたものなので絶対に売りたくないという場合は、その土地を売却する代理権を任意後見人に与えないこともできます。

ただし、あまり代理権の範囲を限定し過ぎると、必要なことも任意後見人が行うことができず、結局成年後見人を選任せざるを得なくなるおそれもあります。成年後見が開始すると、任意後見契約は終了してしまいます。

4.後見開始条件

成年後見は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」について、親族等が家庭裁判所に請求し成年後見人が選任されることにより開始します。

任意後見は、任意後見契約締結後、「精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況」になった時に、本人や任意後見受任者等が家庭裁判所に請求し任意後見監督人が選任されることにより開始します。

任意後見の開始条件は、成年後見ほど厳しくはありません。判断能力が低下してきたな、と思えばスタートすることができます。本人以外の者の請求によりスタートするには本人の同意が必要です(本人が意思表示できない場合を除く)。

なお、判断能力の低下はあるが成年後見を開始する程ではない人のためには、保佐人や補助人を選任することができます。

  • 保佐人…精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者について選任される
  • 補助人…精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者について選任される

※『成年後見・保佐・補助の違い』参照。

5.後見監督人

任意後見の場合、スタート時に任意後見監督人が家庭裁判所によって選任されます。任意後見人が親族であれ専門職であれ、必ず任意後見監督人は選任されます

成年後見の場合、家庭裁判所が必要と認めるときに成年後見監督人が選任されます。任意後見監督人と違って必ずしも選任されるわけではありませんが、財産が多かったり、後見事務内容が複雑な場合等に選任されることがあります。成年後見開始時に限らず、途中で事情が変わった場合等に後から選任されることもあります。

本人としては後見監督人が後見人の事務を監督してくれるので横領等のリスクが減り安心感が増すメリットがありますが、後見監督人には別途報酬が発生する点がデメリットです。報酬額は概ね月額1~2万円ですが、財産額が大きい場合はもっと高くなることもあります。

6.後見の解除

成年後見は、一度開始すると基本的に本人が死亡するまでずっと続きます。本人の判断能力が回復した場合に取り消されることはありますが、レアケースでしょう。

成年後見人が死亡したり解任されたりした場合であっても、新たな成年後見人が選任され、後見は続きます。

任意後見は、契約を結んでからスタートするまでの間はいつでも解除することができますスタートした後は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、解除することができます

任意後見人が死亡したり解任された場合、任意後見は終了します。この場合、本人に意思能力が残っていれば新たな任意後見人と契約することもできますが、そうでない場合は成年後見制度を利用するしかありません。

7.自宅不動産の売却

成年後見の場合、居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要です

売却の他、取壊し・賃貸・担保設定等も含まれます。自宅が賃貸の場合は、賃貸借契約の解除も含まれます。

任意後見の場合、家庭裁判所の許可は必要ありません。任意後見監督人の同意も必要とはされていませんが、重要な財産の処分であるため、事前に相談しておくべきでしょう。

8.本人の行為の取消

成年後見人は、本人の行為を取り消すことができます。(ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については取り消せません。)

これに対し、任意後見人には取消権がありません。例えば本人が高額商品を購入してしまった場合、これを取り消すことができません。ただし、錯誤、詐欺又は強迫による場合は、取り消しが認められる余地はあります。

9.ライフプラン

任意後見契約書の附属書類として、ライフプランを作成することがあります。ライフプランには、任意後見が開始したときに任意後見人に留意してもらいたい希望を書きます

成年後見の場合、特に専門職が後見人となる場合は後見開始前に本人と面識がないことも多く、本人の希望や好みを前もって知ってもらうことができません。

任意後見では、遅くとも任意後見契約締結時には任意後見人となる人との交流が始まるため、いざ自分の判断能力が低下して任意後見が開始したときにどのように後見事務を行って欲しいのか、契約書の条項では表現できない細かいことまで事前に希望を伝えておくことができます。ライフプランは任意後見の一番のメリットと言えるかもしれません

任意後見人にとっても、後見事務の指針としてライフプランは重宝します。例えば、「財産はなるべく自分のために使い切りたい」という希望が書面(ライフプラン)として残っていれば、本人の死亡後に相続人から「遺産が少ない!任意後見人が無駄遣いしたのではないか」というクレームを受けるリスクを恐れることなく本人のために財産を使うことができます。

ライフプランには以下のような内容を記載します。(一例です。他にどんなことを書いても自由です。)もちろん、一度作成したら終わりではなく、いつでも何度でも書き直すことができます。

  • 介護について(在宅か施設か、施設ならばどのような施設を希望するか等)
  • 医療について(治療方針、手術の同意者、かかりつけの病院、入院先の希望、延命治療の希望等)
  • 葬儀・埋葬について(死後事務委任契約を締結している場合はその旨)
  • 財産の管理・処分方針について(売却が必要となった場合にどの財産から売却するか等)
  • 趣味・嗜好について(生活習慣、食の好み等)

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