相続により共有となった状態を遺産共有といい、通常共有とは区別されます。
通常共有とは、例えばAとBでお金を出し合って不動産を購入した場合等に生じる共有状態です。
遺産共有と通常共有は併存することがあり得ます。先の例でBが死亡してC・Dが相続人となった場合、A・C・Dの共有となります。亡B持分についてはC・Dの遺産共有状態となりますが、AとC・Dの関係は通常共有です。
遺産共有は遺産分割手続きにより、通常共有は共有物分割手続きにより解消するものとされています。
以下、両手続きの違いを記述します。
なお、民法改正(令和5年4月1日施行)により、遺産共有と通常共有が併存する場合であっても、相続開始から10年を経過すれば、共有物分割手続きにより一気に共有解消を図ることが可能となりました。
Q&A
Q1.管轄裁判所は?
A1.遺産分割は家庭裁判所、共有物分割は地方裁判所です。そもそも管轄が違うのです。
より詳細には、遺産分割調停は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、遺産分割審判は被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。ただし、通常はまず調停を試みて、まとまらなかったら審判、という流れが一般的です。この場合、調停から審判への移行は自動的に行われるので、改めて審判の申立てをする必要はありません。
共有物分割は相手方の住所地または不動産がある住所地を管轄する地方裁判所です。訴額が140万円以下の場合は簡易裁判所に申立てることもできますが、裁判所の裁量によって地方裁判所に移送されることがあります。また、分割を求める共有財産が不動産の場合は、相手方が地方裁判所への移送を申立てたら必ず移送しなければならないことになっています。
Q2.分割の対象となる財産は?
A2.遺産分割は遺産全体を対象とします。
遺産の中に不動産がある場合、その不動産についてのみ相続分に基づいて分割するのではなく、他の遺産(預貯金等)も含めて全体のバランスを考慮しながら分割することとなります。(ただし、他の共同相続人の利益を害するおそれがない場合は、遺産の一部の分割も可能です。)
これに対し、共有物分割は個々の共有財産を対象とします。(ただし、複数の共有財産がある場合は、一括して分割を行うことも可能です。)
Q3.分割の基準は?
A3.遺産の分割については、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」とされています(民法906条)。持分だけで画一的に判断するわけではない、ということです。
共有物分割についてはこのような基準はありません。
Q4.特別受益や寄与分は考慮されますか?
A4.遺産分割では考慮されます。共有物分割ではされません。
ただし、民法改正(令和5年4月1日施行)により、相続開始から10経過後は遺産分割であっても特別受益や寄与分が主張できなくなりました。
※『遺産分割はお早目に?10年経つと主張できなくなる権利とは』参照。
Q5.配偶者居住権は設定できますか?
A5.遺産分割では配偶者居住権の設定も選択肢に入れて遺産の分け方を決めることができます。
共有物分割では配偶者居住権を設定することはできません。
※『配偶者居住権とは?』参照。
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