民法(相続法)改正により、令和元年7月1日から、遺産分割協議が整う前であっても一定の金額まで預貯金の払戻しができるようになりました。
※『遺産分割前でも預貯金の払戻しができます』参照。
これとは別に、家庭裁判所の判断により、遺産分割前でも預貯金の払戻しを受けられる場合があります。
以下、この制度について記述します。
Q&A
Q1.従来の規定からどう変わったのですか?
A1.今までも家庭裁判所の判断により遺産分割前に預貯金の払戻しを受けることはできましたが、その要件は「事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」という厳しいものでした。
今回、その要件が緩和され「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるとき」となりました。
Q2.メリットは何ですか?(家庭裁判所の判断を経ない手続きと比べて)
A2.払戻しできる金額に上限が設けられていません。
(家庭裁判所の判断を経ない手続きの上限額については『遺産分割前でも預貯金の払戻しができます』参照。)
ただし、他の共同相続人の利益を害することはできません。(Q5参照)
Q3.デメリットは何ですか?(家庭裁判所の判断を経ない手続きと比べて)
A3.遺産分割の審判又は調停の申立てを行っていることが前提で、家庭裁判所の審査を経る必要があります。要するに、手間と時間がかかるということです。
特に、相続人全員の陳述を聴取する必要があるとされていることから、相応の日数を要すると考えられます。
遺産分割を待たずに預貯金の払戻しを受けたい場合というのは、急ぎ金銭が必要な事情があることが多いでしょうから、この点は大きなデメリットです。
Q4.払戻しが認められるのはどのような場合ですか?
A4.「相続財産に属する債務の弁済」「相続人の生活費の支弁」(Q1参照)の他、以下のような場合に認められると考えられます。
- 葬式費用の支払い
- 相続税の納付
- 相続財産に係る共益費用の支払い
結局は個々の事案に応じて家庭裁判所が判断します。
Q5.払戻しが認められないのはどのような場合ですか?
A5.「他の共同相続人の利益を害するとき」は認められません。
通常、払戻しが認められるのは預貯金額の法定相続分の範囲内と考えられますが、事案によってその範囲を超える払戻しが認められることもありますし、逆に範囲内であっても認められないこともあります。
結局は個々の事案に応じて家庭裁判所が判断します。
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