相続による預貯金の払い戻しは銀行ごとに独自のルールがあり、また、窓口担当者がよく理解していないケースも多いので、意外と大変な思いをすることがあります。
例えば、特定の相続人に預金を相続させる遺言があっても、相続人全員が銀行の書類に実印を押せと言う所があります。公正証書遺言ならいいけど自筆証書遺言はダメという所もあります。ひどい所では、遺産分割協議書(相続人全員の印鑑証明書付き)があっても、銀行の書類にも全員実印を押せと言ってくることがあります。
遺言の内容に納得していなかったり、何とかしぶしぶ遺産分割協議に応じた相続人に対して、銀行の手続きにも協力してくれと言うのは無理があります。その預金を1円も貰えないのに書類に実印を押して役所で印鑑証明書を取得して添付してくれと言われて応じてくれる人がいるでしょうか。(関係が良好なら問題ないかもしれませんが…)
法的には、遺言(公正証書であれ自筆であれ)や遺産分割協議があれば、被相続人死亡の瞬間に預金は指定された相続人のものになります。これを払い戻すのに他の相続人(いわば無関係の第三者)の関与が必要というのはおかしな話です。自分の預金を下ろすのに兄弟のハンコが必要と言われたと思えばいかに馬鹿げた話かよくわかると思います。
法的な根拠を示しつつ交渉してみると指定の相続人のみによる手続きが可能になることもあります。一方で頑として銀行のルールだと言い張る所もあり、こうなるともうそれに従うか訴訟するしかないのですが、少なくとも交渉を試みることは専門家の責任だと考えます。
実は「他人の財産の管理・処分に関する業務ができる」という法令の明文規定があるのは弁護士と司法書士だけなのですが、行政書士や税理士の中にも預貯金の払い戻し等の財産管理業務(遺産承継業務)を行っている人がいるようです。解約手続きを代行するだけの簡単な仕事と思っているのかもしれませんが、法律の知識が乏しく交渉もせずに引き下がるなら専門家失格だと思います。(そういう税理士が実際いたもので…)