生前に贈与を受けていた相続人が、相続時に法定相続分をきっちり取得できるのは不公平ですよね。民法では、基本的に贈与は特別受益となり、その分だけ相続分は減ることとなります。
Q&A
Q1.特別受益とはどういう制度ですか?
A1.贈与を相続分の前渡しとみてその額を相続財産に加え(「持戻し」といいます)、これを「みなし相続財産」として相続分を算定する制度です。
贈与分も遺産(相続財産)とみなすことにより、贈与を受けた人は前もって相続していたことになり、相続発生時にはその分だけ相続分が減ります。これにより相続人間の公平を図ることができます。
Q2.贈与であれば何でも特別受益になりますか?
A2.遺贈(遺言による財産の無償譲与)は全て特別受益となります。
一方で、生前贈与については「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として」の贈与に限られています。少額で扶養の範囲内と考えられる金銭の給付等は特別受益とはなりません。
Q3.持戻し免除とは何ですか?
A3.贈与・遺贈をする人は、「これは特別受益ではありませんよ」という意思表示をすることができます。これを「持戻し免除」といいます。詳細は以下の記事をご参照ください。
※『配偶者に自宅の他にも財産を残したい - 持戻し免除とは』
Q4.ずっと昔に受けた贈与も特別受益になるのですか?
A4.なります。贈与を受けた時期に制限はありません。
Q5.贈与時と相続発生時で財産価値が変わっている場合はどう考えるのですか?
Q5.金銭については、贈与時から相続開始時までの貨幣価値の変動を考慮します。つまり、額面金額ではなく現在の価値に換算した金額を特別受益と考えます。
金銭以外は貨幣価値の変動は考慮せず、相続開始時の価額で考えます。例えば不動産を贈与されたとして、贈与当時は2000万円の価値があったが相続開始時には1000万円に下がっていた場合、1000万円の特別受益と考えます。また、相続開始前に滅失した(地震で倒壊した等)場合は、そもそも特別受益はないと考えます。
ただし、贈与された者の行為によって財産が滅失したり価格の増減があった場合は、原状のままであるものとみなして相続開始時の価格を特別受益とします。
Q6.特別受益が法定相続分を超える場合、他の相続人に超過分の財産を渡す必要はありますか?
A6.ありません。
ただし、他の相続人の遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求をされるおそれはあります。
Q7.被相続人の家にずっと同居していた相続人は、本来払うべき家賃分の特別受益があるのではないですか?
A7.よく聞く主張ですが、家庭裁判所の調停・審判では認められる可能性は低いです。
家賃にせよ住宅ローンの返済にせよ、生活費のかなりの割合を占める支出なので、「自分は払っているのにズルいじゃないか」という気持ちはよく分かります。
ですが特別受益とは「遺産の前渡し」です。被相続人はそういう意図で同居させている(家賃を免除している)わけではないだろう、ということです。
なお、被相続人の土地の上に、相続人が自分名義の家を建てて住んでいる場合も、地代相当額までの特別受益は認められません。(使用借権相当額の特別受益は認められますが、地代相当額よりは低廉です。)
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