1.事例
- 被相続人(亡くなった方)は日本人
- 相続人はフィリピン人の配偶者とその子(日本国籍あり・フィリピン在住)
- 被相続人名義の不動産(日本国内の土地)を子が相続
2.相続登記の必要書類
通常、相続登記申請には、以下の書類が必要となります。
- 遺産分割協議書
- 印鑑証明書
- 被相続人の戸籍一式(出生から死亡まで全て)
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 不動産を取得する相続人の住民票
- 不動産の固定資産税評価証明書
3.外国籍の相続人の必要書類
外国籍の相続人については印鑑証明書や戸籍謄本は存在しませんので、宣誓供述書というものを作成します。宣誓供述書には遺産分割協議の内容も記載します。今回、配偶者については以下の内容を含む宣誓供述書を作成し、フィリピンの公証人に公証してもらいました。
- 相続人(配偶者)の氏名・住所・生年月日
- 被相続人の氏名・最後の住所・本籍
- 被相続人が死亡した旨およびその日付
- 相続人全員の氏名・続柄・生年月日および他に相続人は存在しない旨
- 遺産分割協議の内容および協議成立の日付
4.海外に居住する相続人(日本人)の必要書類
海外に居住していても日本人である以上戸籍は存在するため、戸籍謄本は取得できます。しかし、印鑑証明書や住民票は取得できないので、これに代わる書類として、署名証明書と在留証明書を現地の日本大使館や領事館で取得します。
今回も子についてはそうするつもりだったのですが、パスポート(署名証明書・在留証明書の取得のために必要となります)を保有していないとのことでした。
実は、子はフィリピン国籍も保有する二重国籍者でした。日本では原則として二重国籍は認められていませんが、日本人と外国人の間に生まれた子は20歳までに国籍選択をすればよく、その間は一時的に二重国籍者となります。子は18歳になったばかりで、まだ国籍選択をしていませんでした。
ということで、子についても宣誓供述書を作成することにしました。内容は以下の通りです。
- 相続人(子)の氏名・住所・生年月日
- 被相続人の氏名・最後の住所・本籍
- 被相続人が死亡した旨およびその日付
- 相続人全員の氏名・続柄・生年月日および他に相続人は存在しない旨
- 遺産分割協議の内容および協議成立の日付
- 相続登記申請を司法書士に委任する旨
- 登記において、国内連絡先となる者はいない旨
登記申請の委任状も兼ねる内容としました。なお、2024年(令和6年)4月1日から、海外居住者を所有権の登記名義人とする登記の申請の際には、国内連絡先を申請情報として提供することが必要になりました。国内連絡先となる者がないときは、その旨の上申書が必要とされていますので、宣誓供述書はその上申書も兼ねる内容としました。
5.外国人の住所証明情報
さて、問題は住所証明情報です。以前は宣誓供述書だけで住所証明情報とすることができたのですが、2024年(令和6年)4月1日から以下のいずれかの書類が必要となりました(外国に住所を有する外国人又は法人が所有権の登記名義人となる登記の申請をする場合の住所証明情報の取扱いについて 令和5年12月15日付け法務省民二第1596号通達)。
- 登記名義人となる者の本国又は居住国の政府の作成に係る住所を証明する書面(これと同視できるものを含む。)
- 登記名義人となる者の本国又は居住国の公証人の作成に係る住所を証明する書面+旅券の写し
つまり、公証人の認証を受けた宣誓供述書には、パスポートの写しを付ける必要があります。繰り返しになりますが、子はパスポートを保有していません。子は日本国籍も有しているのでこの通達の射程内なのか若干疑問もありますが、住民票や在留証明書が取得できない以上、外国人としての住所証明が必要と考えました。
現地の日本大使館からのアドバイスで、フィリピンではバランガイ証明書というものが広く利用されているということを知りました。バランガイとはフィリピンの最小行政区のことで、バランガイ長の名で住所の他、氏名・国籍・生年月日・顔写真・指紋・署名等も証明してくれます。管轄法務局に事前照会して了承を得たので、今回はバランガイ証明書を住所証明情報として添付することとし、無事相続登記を完了することができました。