相続の限定承認とは? – あまり使われない理由

Q&A

Q1.限定承認とは何ですか?

A1.相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることです。

後で負債のほうが多いことがわかっても、相続人は自分の財産から弁済する必要はありません。

一見とても便利な方法に思えますが、実際にはあまり使われることはありません。

Q2.限定承認はどのような場合に使われますか?

A2.例えば、以下のような場合が考えられます。

  • 故人の財産状況(特に負債の額)がよくわからないとき
  • 相続放棄をすると次順位の相続人(故人の父母・兄弟など)に迷惑が掛かるので、これを避けたいとき
  • 遺産の中にどうしても相続したい財産(自宅不動産など)があり、相続放棄できないとき(Q7「先買権」参照)

Q3.限定承認があまり使われない理由は何ですか?

A3.とにかく手続きが大変だからです。

まず、限定承認は相続人全員で行う必要があります。1人でも反対すれば限定承認はできません。(ただし相続放棄をすれば最初からその人は相続人ではなかったことになるので、残りの相続人全員で限定承認をすることができます。)

相続人全員と連絡を取り合って足並みを揃えることができるならば、限定承認をする旨を家庭裁判所に申述することになりますが、この際には相続財産目録を作成して提出する必要があります

相続人が複数人の場合には、家庭裁判所が相続人の中から相続財産清算人を選任し、以降の手続きは相続財産清算人が行います。なお、相続財産清算人は、自分の財産と同じ注意をもって、相続財産の管理を継続しなければなりません。

<限定承認の手続きの流れ>

  1. 債権者・受遺者に対する公告・催告(Q5参照)
  2. 相続財産の換価(競売)(Q6参照)
  3. 債権者・受遺者への弁済(Q8~10参照)

上記の他、限定承認により「みなし譲渡所得課税」が生じることがあるため、税務申告(準確定申告)手続きが必要となることもあります(Q11参照)。

Q4.相続人のうち1人でも熟慮期間が経過してしまうと限定承認はできなくなるのですか?

A4.相続を承認するか放棄するかを考える期間(熟慮期間)は「相続開始の時」ではなく「相続開始を知った時」から3か月なので、相続人ごとに期限が異なることがあり得ます。

熟慮期間を経過すると単純承認したものとみなされるので、この場合にはもはや限定承認ができなくなるようにも思えます。しかし、他の相続人の熟慮期間がまだ経過していないならば、相続人全員で限定承認ができるとされています。

なお、相続人の1人が遺産を「処分」したために単純承認したとみなされた場合は、限定承認はできなくなってしまいます。
※『相続放棄ができなくなるNG行動』参照。

Q5.債権者・受遺者に対する公告・催告について教えてください

A5-1.公告の期限

相続人が1人だけの場合は限定承認をした後5日以内、相続人が複数いて相続財産清算人が選任された場合は選任後10日以内です。

A5-2.公告の方法

官報に掲載して行う必要があります。

費用は4~5万円程度かかりますが、相続財産に関する費用として、遺産の中から支払うことができます。

A5-3.公告の内容

公告する内容は以下の通りです。

  • 限定承認をしたこと
  • 2か月以上の一定の期間内に請求の申出をすべきこと
  • 相続債権者及び受遺者が上記期間内に申出をしないときは弁済から除斥されること

A5-4.催告について

知れている債権者及び受遺者には、公告だけでは足りず、各別にその申出の催告をしなければなりません

なお、知らない場合は、わざわざ調査して探す必要まではありません。

Q6.相続財産の換価について教えてください

A6.債務の弁済のために相続財産を売却する必要があるときは、競売に付さなければなりません

不動産に限らず、動産(家財道具など)や金融資産(株式・投資信託など)も競売による必要があります。

なお、競売手続きにおいては、限定承認者(または相続財産清算人)が自ら買受人になることもできます。

任意売却

民法上は競売によることとされていますが、任意売却をしても売却の効力自体は有効です。法律違反なので債権者や受遺者に損害が生じた場合は損害賠償責任を負うことになりますが、実際には不当に安く売却した等の事情がない限り損害が発生することは考えにくいので、任意売却が行われることもあります。

Q7.先買権について教えてください

A7.限定承認者(または相続財産清算人)は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払うことにより、競売を止めてその相続財産を優先的に自ら取得することができます。これを「先買権(さきがいけん)」といいます。

例えば、債務超過であることはわかっているけれど自宅不動産だけは自腹を切ってでもどうしても取得したいという場合に、限定承認をした上で先買権を行使することが考えられます。

通常、相続による不動産取得には不動産取得税は課税されませんが、先買権の行使により自分の法定相続分だけでなく他の相続人の持分も取得した場合は、不動産取得税が課税されるので注意が必要です

なお、先買権行使により支払うお金は当然ながら遺産から支出することはできません。買い受ける限定承認者が自らの財産から支払う必要があります。鑑定に要する費用、不動産取得税についても同様です。

Q8.弁済の順序について教えてください

A8.弁済の順序は以下の通りです。

  1. 優先権を有する債権者
  2. 公告・催告期間内に申し出た債権者・知れている債権者
  3. 公告・催告期間内に申し出た受遺者・知れている受遺者

上記1の優先される債権とは、以下のようなものです。

  • 公租公課(税金)
  • 相続財産に関する費用(固定資産税、火災保険料といった管理費用など)
  • 換価・弁済・その他清算に関する費用

Q9.弁済の方法について教えてください

A9.換価した相続財産で全ての債務を弁済することができない場合には、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければなりません

例えば、債権者・債権額がAさん100万円、Bさん200万円、Cさん200万円で、相続財産が100万円ならば、Aさんに20万円、Bさんに40万円、Cさんに40万円弁済します。

債権者に弁済した後でなければ受遺者に弁済することはできないので(Q8参照)、上記の場合は受遺者がいても1円も受け取ることはできません。

なお、たとえ弁済期が未到来の債権であっても弁済する必要があります。期限前に弁済するからといって割り引かれることはありません。

条件付きの債権や存続期間の不確定な債権についても弁済する必要があります。これらの債権の額をいくらと考えるかは、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従うこととされています。この鑑定費用は「相続財産に関する費用」として遺産から優先的に支出することができます。(先買権行使のために行う鑑定とは異なります。Q7参照。)

Q10.公告・催告期間が過ぎた後に現れた債権者には弁済しなくてもよいのですか?

A10.公告・催告期間内に申し出た債権者・受遺者に弁済してもまだ遺産が残っている場合は、期間後に申し出たりして判明した債権者・受遺者にも弁済しなければなりません。

困ったことに、いつまで支払い義務があるのか法律に規定されておらず判例もありません

限定承認手続きが終了すればその後に現れた債権者には弁済しなくてもいいのか、それとも債権が時効で消滅していない限りは弁済しなければならないのか、ハッキリしないということです。

結局、限定承認手続き後に遺産が残っていても、将来現れるかもしれない債権者のために手を付けずにそのままにしておくほうが無難ということになります。これだと相続放棄したほうがよい気もしますね…。

債権の消滅時効

債権は、次の場合に時効によって消滅します(民法166条1項)。

  • 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
  • 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき

ただし、死後10年経てば安心というわけではありません。例えば死の直前に30年ローンの連帯保証人になっていたとして、20年後に主債務者が支払不能に陥ったならば、その時が債権者にとって連帯保証人に対し「権利を行使することができる時」です。その時から5年ないし10年経つまでは消滅しないということです。

Q11.みなし譲渡所得税とは何ですか?

A11.限定承認をした場合、現金や預貯金以外の資産については、相続開始時の時価で譲渡されたものとみなして所得税が課税されます。

実際に譲渡するかどうかは関係ありません。例えば、預貯金だけで全ての債権者・受遺者に弁済できたため、不動産を売却する必要がなかったとしても、みなし譲渡所得課税は行われます。

相続開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告を行う必要があり、みなし譲渡所得についてもその中で申告します。

なお、譲渡所得課税も故人の債務であるため、限定承認手続きにおいて他の債務と同様に扱われます。つまり、遺産で払いきれない分があったとしても、相続人が自分の財産から支払う必要まではないということです。

Q12.限定承認の手続きを専門家に依頼することはできますか?

A12.弁護士や司法書士に依頼することもできます。

ただし、その費用(報酬)は遺産から支出することはできず、限定承認者が自分の財産から支払わなければなりません。

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