危急時遺言

公正証書遺言作成の準備をしていた方が急に体調を崩して危篤状態となってしまったため、危急時遺言を作成するという機会がありました。滅多にない経験なので備忘録として記録しておきます。(家庭裁判所によって手続きは多少異なるものと思われるのでその点ご了承ください。)

1.遺言作成時の状況

危篤との連絡を受け、遺言者の自宅に駆け付けました。証人が3人必要なので、自分の他に同支部の司法書士2名に同行をお願いしました。日頃から近所の同業者とは仲良くしておくものです。

以前に遺言者の意向は聞いていたので、その通りの内容の遺言書を私が事前に書いて持参しました。遺言者に改めてどのように財産を残したいかを尋ね、意向に変わりないことを確認できたので、私を含む3名の証人が署名・押印(認印)をしました。(民法上、住所の記載は要求されていませんが、一応住所も記載しました。)

遺言書

私の財産は、全て長男〇〇に相続させる。

令和〇年〇月〇日
〇〇(遺言者氏名)

各証人は上記の内容が正確であることを確認し、同日に各証人が署名押印する。
神奈川県〇〇〇 証人 〇〇 印
神奈川県〇〇〇 証人 〇〇 印
神奈川県〇〇〇 証人 〇〇 印

なお、念のため一部始終をスマホで録画し、後の確認申立手続において家庭裁判所にも動画データがある旨を伝えましたが、提出を求められることはありませんでした。

2.遺言の確認申立

2-1.申立書

一般的な家事審判申立書の雛形に事件名「遺言の確認」として提出しました。申立人は私(証人の一人として)です。申立ての趣旨・理由は以下のように記載しました。

申立ての趣旨

遺言者〇〇がなした別紙遺言の確認を求める。

申立ての理由

1.申立人は遺言に立ち会った証人である。

2.遺言者は令和〇年〇月〇日病状が悪化し死亡の危急に迫ったので、自宅に下記証人3人を招きその立会いの上遺言の趣旨を証人〇〇に口授し、同証人はこれを筆記して遺言者および他の証人に読み聞かせ、各証人はその筆記の正確なことを承認し、これに署名押印して別紙遺言書を作成し、申立人がこれを保管している。

3.遺言者は令和〇年〇月〇日に死亡したので、遺言の確認をするためこの申立てをする。

遺言に立ち会った証人
司法書士 〇〇
司法書士 〇〇
司法書士 〇〇

申立人・遺言者・証人の他、把握している限りの法定相続人の住所・氏名・生年月日等の情報も記載しました。

2-2.添付書類

以下の書類を添付しました。

  • 遺言書の写し 1通
  • 戸籍謄本 1通(遺言者の死亡の記載のあるもの)
  • 住民票の写し 3通(各証人のもの)

なお、「申立人の戸籍謄本」も必要と書いてある書籍がありましたが、遺言者の親族でも何でもない私の戸籍謄本を添付する意味はないだろうと思い添付しませんでした。家庭裁判所からは何も言われませんでした。

遺言者が20日以内に死亡しなかった場合は?

危急時遺言は、遺言の日から20日以内に家庭裁判所の確認を得なければ効力を生じません(確認審判が下りる必要まではなく、20日以内に確認申立をすればよいものと思われます。実際、申立から審判まで2か月くらいかかりましたし…)。遺言者が生存している場合は「医師の診断書」が必要と記載されている書籍がありましたが、危篤状態の遺言者を医師に診せるのもどうかと思い、20日という期限を気にしつつ状況を注視することにしました。本事案では遺言作成後、数日後にお亡くなりになり、死亡の記載のある戸籍謄本も申立に間に合いました。しかし、死亡届の提出から戸籍に死亡の記載がされるまで1週間程度かかることもあります。間に合わない場合は取り急ぎ20日を過ぎないうちに申立書を提出し、戸籍謄本は後で追加送付するつもりでいました。

予納郵券

珍しい手続きのためか、家庭裁判所のWebサイトに予納郵券の額の記載がなかったので、事前に電話で確認しました。だいぶ待たされた後、「110円切手を10枚で」と指示されました。「今、決めたよね…?」という感じがしましたが、指示通りの切手を同封して確認申立をしました。後日、照会書が届いたときに「郵便切手が不足しております。500円切手2枚、110円切手1枚、100円切手2枚、10円切手2枚、合計1330円分をあわせてご送付ください。」とメモが付いているのを見たときは正直モヤっとしました。(予納郵券額は家庭裁判所により異なる可能性がありますので管轄裁判所にご確認ください。)

3.照会書

申立から1か月くらい経った後、各証人宛に照会書が送られてきました。証人は家庭裁判所に呼び出されるものかと思っていたのですが、書面のやりとりだけで済みました。照会書の内容は以下のとおりです。

1.あなたと遺言者との関係及び遺言の証人となった事情
2.遺言作成時の状況
(1)遺言筆記者の氏名、住所、職業、遺言者との関係
(2)遺言作成時の遺言者の状況(意識状態、精神状態、具体的に遺言者が述べた言葉の内容等)
(3)遺言を作成した自宅の部屋の状況、雰囲気(利害関係人の同席の有無等)
3.遺言者と受遺者の関係(身分関係、生活関係)
4.遺言者の相続人の本籍、住所、氏名
5.遺言者の生活歴(学歴、職歴、病歴・入院歴、婚姻歴等)

申立書に既に書いた内容も含まれていますし、実際は重複している質問があったり、照会書と回答書で項目が一致していなかったりと、失礼ながらやっつけで作った感満載の質の低い文書でした。遺言者の生活歴等はわからないので相続人にヒアリングして書きました。証人同士で示し合わせたと思われるのもよくないので、他の証人2人には正直に思った通り回答してくれ(わからないことはわからないでOK)とお願いしました。

なお、民法上、医師の立会は要件とされていませんが、家庭裁判所からは照会書が送られてくる前に医師の立会があったのかと電話で確認があり、担当医師の連絡先を上申書としてFAXするよう指示がありました。医師にも照会書が届いたようです(内容は不明)。

約1か月後が照会書の回答期限に設定されており、その期限日付けで無事確認審判が下りました。

4.確認審判後の手続き

検認と違い2週間の不服申し立て期間があるため、当該期間経過後に確定証明書を取得しました。不動産登記や預貯金の払い戻し手続きにおいても必要になるものと思われます。

また、公正証書遺言ではないため、検認の手続きは別途必要となります。

5.補足

本事案ではもともと公正証書遺言作成に向け、遺言者の意識がはっきりしているときに1時間半くらいかけて私のほうでじっくり話を聞いていたという事情がありました。危篤状態になって初めてお会いして遺言書を作成したわけではないことを申し添えておきます。