自筆証書遺言と公正証書遺言の違いは?

民法には遺言の形式がいつくか規定されていますが、ほとんどの遺言は自筆証書遺言か公正証書遺言のどちらかです。自筆証書遺言は自分で書いた遺言、公正証書遺言は公証役場で証人の立会いのもと作成した遺言です。自筆証書遺言は費用を掛けず簡単に作成することができますが、デメリットも多いため、公正証書遺言をお勧めします。

以下、公正証書遺言のメリットについて記載します。

1.様式の不備により無効になる危険がない

自筆証書遺言の書き方は厳格に決まっており、例えば以下のような遺言は無効です。
・ワープロで書いてある
・日付を書いていない(「吉日」と書いた遺言が無効とされた判例があります。)
・押印していない

また、書き間違えた個所の訂正の仕方も民法に具体的に規定されています。方式をきちんと守らなかった場合、その訂正はなかったものとされてしまいます。

不動産を記載する場合は、土地は所在・地番・地目・地積を、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積を正確に表記する必要があります。私道の持ち分がある場合はその記載も必要ですし、マンションやアパートの1室の場合は、敷地とその持ち分割合も記載する必要があります。不動産を正確に表記できている自筆証書遺言はほとんど見たことがありません。

不動産の表記が完璧でなくても遺言が直ちに無効になるわけではありませんが、登記手続き等に使えない可能性があります。この場合、遺言と同じ内容の遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印を押して印鑑証明書を添付する必要があります。遺言の内容に納得しない相続人がいると、協力が得られず困ったことになります。

公正証書遺言の文面は公証人が作成してくれるため、上記のような心配はまずありません。

2019年1月13日の民法改正により、自筆証書遺言であっても財産目録だけは自筆でなくても(ワープロ打ち等でも)よくなりました。法務局で取得した登記事項証明書を添付することもできます。ただし、各ページ(両面印刷の場合は両面とも)に署名・押印が必要となるので注意が必要です。

2.紛失したり破棄される危険がない

公正証書遺言は原本が公証役場に保管されるため、紛失する心配がありません。また、自身の死亡後に、相続人が勝手に捨てたり書き換えたりする危険もありません。

なお、公正証書遺言の有無は、公証役場で検索して確認することができます。これは遺言を作成した公証役場に限らず、全国どこの公証役場でも可能です。

3.検認が不要

相続発生後、自筆証書遺言には家庭裁判所による「検認」という手続きが必要です。公正証書遺言の場合はこれが不要です。

検認の申し立てには相続人全員の戸籍謄本等を用意する必要があります。相続人が多い場合、戸籍謄本等の収集だけで数ヶ月かかることもあります。いざ申し立てても、検認されるまで1ヶ月程の時間が掛かります。また、申し立ての手続きを司法書士等に依頼するとその費用も掛かります。

銀行預金を特定の相続人に相続させる自筆証書遺言を書いても、検認が終わるまでは預金の払い戻し手続きができません。葬儀費用が捻出できない等、相続人が困る場合があります。

また、公正証書遺言による払い戻しにしか応じてくれない金融機関もあります。この場合、自筆証書遺言があったとしても相続人全員が払い戻し手続きに関与する必要があります。遺言の内容に納得しない相続人がいる場合、協力が得られず困ったことになります。

2020年7月10日より、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度が始まりました。この制度を利用した場合は検認は不要です。