配偶者に自宅の他にも財産を残したい - 持戻し免除とは

婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他方に対し、居住用不動産(建物またはその敷地)を贈与・遺贈(遺言による財産の無償譲与)した場合、遺産分割においてそれを特別受益として扱わない旨の意思表示をしたものと推定されます

これを「持戻し免除」といいます。

通常、生前に贈与を受けたり遺贈により財産を与えられた相続人は、遺産分割においてその分取り分が減りますが、上記の条件を満たす場合は取り分が減らないということです。

Q&A

Q1.持戻し免除の有無でどう変わるのか具体例で教えてください。

A1.父が亡くなり、遺産は預貯金3000万円、相続人は母、長男、長女の3人です。母は父の生前に居住用不動産(2000万円)の贈与を受けていました。

<持戻し免除がない場合(通常)>
生前贈与分も遺産に持戻すので、遺産は3000万円 + 2000万円 = 5000万円
母の法定相続分は、5000万円 × 1/2 = 2500万円
母は居住用不動産(2000万円)を既に受け取っているので、
預貯金から受け取れる額は、2500万円 – 2000万円 = 500万円

<持戻し免除がある場合>
生前贈与分は遺産に持戻さないので、遺産は預貯金3000万円のみ
母が預貯金から受け取れる額は、3000万円 × 1/2 = 1500万円

上記のように、持戻し免除がある場合は、母の取り分が多くなります

Q2.持戻し免除の意思表示をしたものと「推定する」とはどういうことですか?

A2.被相続人(Q1の例では父)が遺言等により意思表示をはっきりとしていない場合に、「一応、意思表示をしたものと考える」ということです

推定は反証により覆すことができます。つまり、他の相続人(Q1の例では長男や長女)が証拠を出して「父に持戻し免除の意思はなかった」と主張することはできます。

もっとも、通常はそのような証拠があるケースは少ないと思われるので、この推定規定は配偶者にとって非常に有利なものとなっています。

Q3.持戻しを免除しないこともできますか?

A3.できます。

本規定は意思表示をはっきりとしていない場合の推定規定なので、「持戻しを免除しない」とはっきり意思表示すれば、その意思が尊重されます。

なお、意思表示は必ずしも遺言でする必要はありません。

Q4.婚姻期間20年とは贈与時点ですか?相続開始時点ですか?

贈与時点です

例えば、婚姻後5年目に贈与がなされ、相続開始時には婚姻期間が20年以上になっていたとしても、本規定は適用されません。

なお、同じ相手と結婚・離婚を繰り返している場合、通算して20年以上の婚姻期間があれば本規定は適用されるものと考えられます。

Q5.相続開始の時点(被相続人が死亡した時点)で居住している必要がありますか?

A5.贈与の時点で居住していればよく、相続開始時点で居住している必要はありません。

Q6.贈与の時点ではまだ居住していないが近い将来居住する予定のある不動産について、本規定は適用されますか?

A6.適用されるものと考えられます。

Q7.複数の居住用不動産を贈与した場合、全ての贈与に本規定が適用されますか?

A7.ケースバイケースですが、居住用不動産を贈与した後に転居し、その後また居住用不動産を贈与した場合、後の贈与により先の贈与の持戻しは免除しない意思があった認められる可能性があります。(要するに、後の贈与にしか適用されないということです。)

Q8.配偶者居住権についても本規定は適用されますか?

A8.適用されます。

居住用不動産の所有権だけでなく、配偶者居住権を遺贈した場合であっても、持戻し免除の意思が推定されます。

※配偶者居住権については『配偶者居住権とは?』参照。

Q9.持戻し免除の意思をはっきりと表明した上で贈与・遺贈をすれば、居住用不動産に限らず全財産を配偶者にあげることができるのではないですか?

A9.できます。ただし、他の相続人は遺留分侵害額請求をすることができます。持戻し免除の意思があったとしても、他の相続人の遺留分侵害額請求権を奪うことはできません

Q10.こんな規定がなくても母が全財産を取得することに異論ないのですが?

A10.結構なことです。相続人全員が合意しているならば何の問題もありません

遺産分割は法定相続分通りに行わなければならないわけではありません。特定の相続人の取り分がゼロになっても構いません。(合意しているならば)

本規定は、権利をしっかり主張してくる相続人(例えば、前妻との子等)がいる場合に活きてくるものです。

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