司法書士は決済の場で何をしているの?

私が会社を辞めて司法書士になると伝えた時、上司に「俺がマンション買った時に突然現れてえらい額の現金ふんだくって行った奴か!」と言われました。

…まず、領収書をよくご確認いただきたいのですが、実費、特に登録免許税が金額の大半を占めています。登録免許税は国に納める税金で、司法書士の懐に入る報酬ではありません。司法書士は決済が終わるとその日のうちに法務局へ登記申請に向かいます。法務局で登録免許税を納めるため、決済の場で現金で出してもらうのが通例となっています。(今は法務局へ行かなくてもインターネットで登記申請ができますし、登録免許税も電子納付できるので、必ずしも現金でもらう必要性はなくなっているのですが。)

では、司法書士が決済の場で担っている役割をご説明します。

ある不動産の売買において、Aさんが売主、Bさんが買主だとします。Aさんは不動産を買った時にX銀行から融資を受けており、まだ完済していないので不動産にはX銀行の抵当権が付いたままです。Aさんは今回の売買代金の一部をX銀行への返済に充てるつもりでいます。一方、Bさんはこの不動産を買うためにY銀行から融資を受けます。

本来、Y銀行としては確実に不動産を担保に取るために、以下の3つの登記がなされた上で融資を実行(Bさんに貸付金を振り込むこと)したいのです。

  1. 先順位のX銀行の抵当権の抹消登記
  2. AからBへの不動産の所有権移転登記
  3. Y銀行の抵当権設定登記

しかし、そもそもY銀行からの融資が実行されないとBさんは売買代金を払えません。Aさんも売買代金をもらえなければX銀行に完済できません。通常の売買契約では代金の支払いが所有権移転の条件になっていますし、X銀行は完済を確認しない限り絶対に抵当権の抹消には協力しません。融資が先か登記が先かといった問題が生じます。

そこで登場するのが司法書士です。司法書士は決済の場で書類を確認し、上記1~3の登記が確実にできることを保証します。Y銀行はこれをもって融資を実行するのです。

もし何らかの事情で登記ができなかった場合は大問題です。あくまで可能性の話ですが、所有者名義がAさんのままになっているのをいいことに、Aさんが別の人に売ってしまう(二重売買)かもしれません。また、X銀行が抵当権を実行し、不動産を競売にかけてしまうかもしれません。そうなると司法書士はBさんやY銀行から損害賠償を請求されてしまいます。不動産売買に絡む損害ですから数千万~数億円になることも考えられます。

決済当日に突然現れる司法書士は、実は重い責任を負っているのです。私は、司法書士報酬は書類作成の対価ではなく、この責任を果たすことへの対価だと考えています。