権利証を紛失している場合、所有者であることが証明できないので、所有権移転登記を申請することができません。この場合に司法書士が「間違いなく所有者本人であることを確認しました」という書類を作ることにより、権利証に代えることができます。この書類を「本人確認情報」といいます。
よく本人確認情報の作成報酬が高いという声を聞きます。当事務所でも売主(贈与の場合は贈与者)お一人あたり10万円頂戴しています。これより低い額ではお受けしません。
詐欺師がなりすましで不動産を売却する場合、権利証を偽造することはほとんどなく、免許書やパスポートを偽造して司法書士をだまして本人確認情報を作成させることが多いようです。なりすましを見抜けなかった司法書士は損害賠償の責任を問われる可能性があります。実際に責任が認められた裁判例も多数あります。仮に1,000万円の取引で1割の責任が認められた場合、賠償額は100万円です(実際の詐欺はもっと大きな金額の取引で行われます。)。10万円の報酬ではとても賄えません。10万円もらってもやりたくないというのが正直な所なのです。
権利証がない場合の手続きの選択肢として、本人確認情報の他に「事前通知」と「公証人による本人確認」の2つがあります。
1.事前通知
権利証を紛失した旨を伝えて登記を申請すると、後日法務局から売主の住所宛に「あなたの不動産を売却する登記申請が出ていますが間違いないですか?」と確認するハガキが送られてきます。これに対し、売主が「間違いありません」と実印を押して返送することで登記手続きが進められます。
なお、通知発送から2週間以内に返送しないと登記申請は却下されます。買主としては、登記されるかどうかは売主のアクション次第という不安定な状態に置かれることになるので、この制度が利用できるのは売主と買主が親族同士である等、信頼関係がある場合に限られます。また、買主が銀行から融資を受ける場合で抵当権設定登記を併せて申請する場合、銀行が許可しません。銀行は「確実に抵当権設定登記がされること」を条件に融資するからです。
2.公証人による本人確認
司法書士ではなく、公証人に本人確認をしてもらう方法です。公証役場まで出向く必要はありますが、司法書士よりも安い手数料で対応してもらうことができます。
3.最後に
司法書士は登記の責任だけでなく、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」により本人確認の責任も負っています。権利証がある場合や公証人による本人確認がなされた場合でも免許証等を確認させていただく義務があります。本人確認情報を作成する場合は、免許証等の確認に加えて不動産を取得した経緯等を細かくお聞きする必要があるため、疑われているようで不快に思う方もいらっしゃるかもしれません。しかしこれは専門家に課せられた義務であり使命なので、どうかご理解いただきますようよろしくお願いいたします。