所有権移転請求権仮登記の抹消

所有権に関する仮登記を抹消した事案をご紹介します。

なお、不動産登記法改正により令和5年4月1日から可能となった休眠担保抹消手続き(※)は、所有権の仮登記や差押・仮差押の抹消には利用することができません。
※『古い抵当権等の抹消手続きが簡略化されます』参照。

所有権移転請求権仮登記の抹消

1.事案

  • 昭和59年8月8日売買予約に基づく所有権移転(共有者全員持分全部移転)請求権仮登記の抹消
  • 仮登記権利者は令和元年5月25日に死亡
  • 仮登記権利者の相続人は3名(戸籍調査により判明)、うち1名は韓国在住

2.時効消滅としたほうが楽?

売買予約から10年以上経過しているので、予約完結権は時効により消滅しているものと思われます。

時効の効力は起算日にさかのぼるため(民法144条)、時効消滅を原因として仮登記を抹消するならば、前提として相続登記を入れる必要がありません。その点で、手続きの手間が少ないと言えます。

しかし、時効は援用する(時効の完成を相手方に主張する)必要があります。本事案では相続人のうち1名が韓国在住ですので、郵便等で時効を援用した上で、(その援用の日を記載した)登記関係の書類(登記原因証明情報)に署名してもらう必要があり、二度手間となってしまいます。

国内在住の相続人に所有権移転請求権を相続してもらうならば、韓国在住の相続人にはその旨を記載した遺産分割協議書に署名して返送してもらうだけでよく、その後の抹消手続きは国内の相続人のみとやりとりすればよいので、今回はこの方法をとることにしました。

3.登記申請情報

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登記の目的 2番共有者全員持分全部移転請求権の移転

原因    令和1年5月25日相続

相続人   (被相続人 山田 太郎)
      ●●県●●市~
      山田 花子(※1)
      登記識別情報通知希望の有無:希望しない(※2)

添付情報  登記原因証明情報(※3)
      代理権限証明情報

令和5年4月10日申請 ●●法務局●●支局

代理人 神奈川県藤沢市辻堂元町一丁目5番20号
    司法書士 吉村 健

登録免許税 金1,000円

代理人の事務所あて登記完了証及び原本還付書面の送付を希望する。

不動産の表示
(省略)

※1 相続人3名のうち、国内在住の1名が相続することとしています。
※2 続く2件目ですぐに抹消されてしまう権利なので、登記識別情報の通知は不要としています。
※3 通常の所有権が移転する相続登記と同様です。(遺産分割協議書、印鑑証明書(韓国在住の方は署名証明書)、戸籍一式、被相続人の住所証明書(本籍地入り))

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登記の目的 2番仮登記抹消

原因    令和5年3月16日解除

権利者   ●●県●●市~
      田中 一郎

義務者   ●●県●●市~
      山田 花子

添付情報  登記原因証明情報
      登記識別情報(※1)
      印鑑証明書(※2)
      代理権限証明情報

令和5年4月10日申請 ●●法務局●●支局

代理人 神奈川県藤沢市辻堂元町一丁目5番20号
    司法書士 吉村 健

登録免許税 金1,000円

代理人の事務所あて登記完了証及び原本還付書面の送付を希望する。

不動産の表示
(省略)

※1 1件目の相続登記で発行される登記識別情報のことなので、実際には何も添付する必要はありません。なお、1件目で登記識別情報の通知を「希望しない」としていても何ら問題ありません。
※2 所有権に関する登記なので、義務者の印鑑証明書が必要となります。

4.遺産分割協議書

実際の遺産分割協議書を掲示します。1件目の相続登記の登記原因証明情報の一部です。

印鑑証明書を添付しますが、韓国在住の方は大使館にて署名証明書を作成してもらいました。

5.解除証書

実際の解除証書を掲示します。2件目の抹消登記の登記原因証明情報です。

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