家族信託の受託者は何をする必要がありますか?

家族信託(民事信託)の受託者は様々な義務を負います。

家族信託はあくまで受益者の利益を図るためのものであり、受託者が自由に財産を管理・処分できるものではありません

受託者にとっては「割に合わない」仕事であり、家族(委託者・受益者)のためでなければ引き受けないような重い責任を負うものであることを十分ご承知おきください。

実際にご相談を受けて家族信託で解決できそうな事案であっても、適当な受託者がいないために断念することが多々あります。

※家族信託(民事信託)の概要については、当事務所のWebサイトをご参照ください。

Q&A

Q1.受託者にはどのような義務がありますか?

A1.信託の本旨に従って信託事務を処理する義務があるのはもちろんのこと、他にも以下のような様々な義務があります。

  • 善管注意義務
  • 忠実義務
  • 公平義務
  • 分別管理義務
  • 信託事務処理状況等の報告義務
  • 帳簿等の作成・報告・保存義務

Q2.善管注意義務とは?

A2.「善良な管理者の注意」のことで、自分の財産を管理するよりも重い、高度な注意義務を負うということです。

Q3.忠実義務とは?

A3.信託事務の処理等にあたり、受益者に対して負う義務です。

典型的な忠実義務違反として、利益相反行為や競合行為があります。

利益相反行為とは、例えば信託された財産を受託者が買い取って受託者固有の財産にするような行為です。

競合行為とは、例えば信託された金銭で投資用不動産を購入することとなっている場合に、良い物件が見つかったので受託者が自分で購入してしまうような行為です。

Q4.公平義務とは?

A4.受益者が2人以上いる場合に、受益者のために公平に職務を行う義務です。

Q5.分別管理義務とは?

A5.信託財産と受託者固有の財産をきちんと分けて管理する義務です。

不動産については、信託の登記をすることが義務付けられています

金銭・預貯金については「その計算を明らかにする方法」で分別管理せよと規定されているのみですが、信託口口座を開設して管理することが望ましいです。

※『家族信託における信託口口座とは?』参照。

Q6.信託事務処理状況の報告義務とは?

A6.委託者または受益者の求めに応じて、以下の状況について報告する義務です。

  • 信託事務の処理の状況
  • 信託財産に属する財産の状況
  • 信託財産責任負担債務の状況

Q7.帳簿等の作成・報告・保存義務とは?

A7.受託者は信託帳簿を作成しなければなりません。

また、毎年1回、財産状況開示資料(貸借対照表、損益計算書等)を作成し、その内容を受益者に報告しなければなりません。

信託帳簿は10年間、財産状況開示資料は信託が終わるまで保存しなければなりません。

Q8.税務署に提出する書類はありますか?

A8.受託者は、信託財産に係る収益が年3万円を超える場合には、毎年1月31日までに信託の計算書及びその合計表を提出しなければなりません。(収益が3万円以下であっても株式等の配当所得がある場合は提出が必要です。)

また、税務上、贈与・遺贈と認識される事由が生じた場合は、受益者別(委託者別)調書及びその合計表の提出が必要となることがあります。

この辺りは税理士のサポートがないと難しいかもしれません。

Q9.受託者は債務を負担しますか?

A9.信託法の規定により信託財産のみから支払うこととされている債務(受益者への給付等)以外は、受託者も固有財産から支払う責任を負います

例えば、信託財産である収益不動産(賃貸アパート等)をリフォームするために銀行から借入れをしたけれども思ったほど賃料収入が得られず、信託財産だけでは返済できなくなった場合、受託者は自分の財産をもって返済しなければならないということです。

Q10.司法書士や弁護士に受託者になってもらうことはできますか?

A10.できません。

営業のために受託者となれるのは信託会社に限られています

営業にあたらなければ家族でなくても受託者になれますが、プロでもない相手に自分の財産を信託するわけですから通常は家族であることが多く、これが家族信託と呼ばれる由縁です。

なお、報酬を受け取ってはいけないという意味ではありません。信託契約等に定めることにより受託者は報酬を受け取ることができます。(逆に、無報酬とすることも可能です。)

Q11.受託者の事務を第三者に委託することはできますか?

A11.できます。

例えば、信託不動産の管理を管理会社に委託することができます。

この場合、受託者はその第三者に対し、信託の目的の達成のために必要かつ適切な監督を行わなければなりません。

ただし、信託事務処理の全てを第三者に丸投げすることはできません。(これができるならば司法書士等の専門職が実質的な受託者になることができてしまいます。Q10参照。)

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