遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができません。この規定に反した行為は無効となります。
従来、この場合の無効は絶対的無効(何があっても無効)とされていました。
ところが、民法(相続法)改正により、令和元年7月1日から「善意の第三者に対抗することができない」という規定が追加されました。
Q&A
Q1.「善意の第三者」とはどういうことですか?
A1.法律用語の「善意」は「知らない」という意味です。善良な人という意味ではありません。
この規定に限ってもっと具体的に言うと、「遺言執行者がおり、その財産の管理処分権が遺言執行者にあることを知らない」という意味です。
そのような第三者に対しては、無効にならないことがあるということです。
Q2.「対抗することができない」とはどういうことですか?
A2.「権利を主張することができない」という意味です。
第三者に対して自分の権利を主張するための要件(第三者対抗要件)は、不動産は登記、債権は確定日付のある証書による債務者への通知または承諾、動産は引渡しです。
※以下の記事もご参照ください。
『遺言があるときは相続登記をお早めに』
『相続による預貯金の払戻しはお早めに』
Q3.民法(相続法)改正により、要するに何が変わったのですか?
A3.遺言執行者は、対抗要件の具備を急いで行わなければならなくなりました。相続人としても、遺言執行者が迅速に対処してくれるかどうか注視する必要があります。(従前は遺言執行者を無視した行為は絶対的に無効だったので急ぐ必要はありませんでした。)
のんびりしているうちに善意の第三者が対抗要件を備えてしまうと、相続人はその第三者に対しては権利を主張することができなくなってしまいます。そんなことになれば遺言執行者は損害賠償責任を問われるおそれもあります。
Q4.具体例で説明してください。
A4.相続人がXとYの2人で、「A不動産はXに相続させる、遺言執行者をZとする」という遺言があるにも関わらず、Yが法定相続割合(X持分1/2、Y持分1/2)による登記をした上で、Y持分(1/2)を善意の第三者αに売却してしまいました。
この場合、αが登記を備えると、Xはαに対して「(αが得た1/2の権利は)遺言があるから自分のものだ」と主張することはできなくなる、ということです。
Q5.債権者も「善意」でなければ権利行使(差押え等)ができないのですか?
A5.被相続人(亡くなった方、遺言者)の債権者、または相続人の債権者は、善意でなくとも相続財産に対して権利を行使することができます。
例えば、相続人のうちの1人に対してお金を貸している人は、遺言執行者がいることを知っていたとしても、相続財産である不動産について法定相続割合による登記を備えた上で、その相続人の持分を差押えることができます。
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